秋もたけなわ 〜前哨戦
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      4



まったくもうもう、
今日は中休みみたいなもんですが、
明日からは学園祭への準備だってあるというにと。
ひなげしさんが愚痴っぽい不平を並べ、
傍らで紅ばらさんが“うんうん”と頷くのへと、

 「まあまあ、お二人とも。」

自分たちへの成り済ましらしいのだから、
全然の全く関係がないとも言い切れぬ話なんだしと。
愛想笑いと呼ぶには嫋やかすぎる、
それはそれは優しい微笑をたたえた白百合さんが宥めに回る。

 「だからって私たちに非はありませんが。」
 「そうだけど…。」

選りにも選って宵に構えられてる大作戦とやらへまで
付き合う義理はありませんとする平八の言いようももっともで。
そっちの道理が判るだけに、
甘く垂れた目尻を困ったようにますますと下げて、
ややもすると言い負かされかかる七郎次だったのを、

 「………。」
 「いや、だから。
  何もシチさんを苛めてるんじゃありませんてば、久蔵殿。」

通せんぼ、若しくは生身の楯よろしく、
両腕を広げて立ち塞がるという、
ともすれば子供っぽい所作・格好で、二人の間に割って入った久蔵へ。
微笑ましいなぁとの苦笑をこぼした平八が言いたかったのは、

 「ですから。
  何も私たち三人ともが
  顔を揃える必要はないでしょうよと言いたいんですよ。」

 「???」

 「恐らくは勘兵衛さんの提案でしょうが、
  正真正銘の本物が出て来ることで、
  好き放題している偽者へお灸を据えたいっていう、
  外連仕立てにしたいとして。
  何も私たち3人揃ってなくても良いはずです。」

 「……。(頷)」

 「だったら、
  シチさんだけを付き合わせれば良いはずでしょう?」

 「………っ。」

おお成程と、
今回のお話に限っては妙に気の回る久蔵が、ポンと手を打ち、

 「だ〜か〜ら〜。///////」

  勝手に盛り上がらないで下さいったら、二人とも。///////

  だって
  何か勘ぐられてはシチさんが気の毒とか、
  そういうの考えそうじゃありませんか、あのお人。

  ………。(頷、頷、頷)

あのあの、前の章の後半だけじゃあ
お喋りタイムは足りなんだのでしょうか、お三方。(笑)




     ◇◇



  冗談はともかく。(こら)


Q街にて秘密裏にうごめいていたとんだ騒動に、
今回は保護者様のお導きによる“前倒し”で
付き合わされることとなった三華様がた。
正念場の部分が発動される時間帯が宵からだというので、
各自のお家へ、ちょっとだけ帰りが遅くなりますと連絡し、

 すいません、
 警視庁の 青少年の日没後の外歩き予防運動に
 ご協力いただきたく…とかどうとか。

もっともらしいお題目にて、
何とか辻褄合わせの説明をしたところ。
草野さんチでは島田警部補殿の名前がものを言ったし、
ひなげしさんの事実上の保護者様もまた、
勘兵衛の言というだけで 手放しにて“お任せします”とのお返事。
何なら手伝おうかとまで言われ、
いやいやそちらもお忙しいだろう、
出来るだけ早く、無事にお帰ししますからと話を通して。

 「………。」

残った三木さんチでは、
榊せんせえ経由で既に話が通っているものかと思いきや、

 『何だと? このまま宵までかかるだと?
  島田警部補と代わりなさい。
  ……警部補殿か?
  何だか話が違って来てはないか?
  あの子らが勝手に“天誅だ”と駆け出さぬような
  防衛策となる手を打つのだと聞いてはいたが、』

まさか本人と偽物とを御対面させて
言い逃れ出来ぬ格好で一網打尽にしたいだなんて
そのような外連がらみな仕立てにしたなんて聞いてないぞと。
ケータイからかすかに漏れ出るお声の輪郭から
久蔵がせんせえの言い分を的確に通訳してくれるので、
内容がすっかりと筒抜けな問答が始まってしまい、

 『やっぱり
  適当に丸め込んだみたいですね、
  勘兵衛さんたら。』

 『……。(頷、頷)』

 『ううう、二人とも 容赦ないんだから。』

…といった、ちょっとしたすったもんだののち、
何とかお嬢様たち全員の都合が落ち着いた一方で、

 「駅ビル周辺は
  1時間周期で顔触れを交替させます。」
 「第1マートモールには、
  捜査課の若手が応援に来てくれましたので。」
 「そうさな、顔が割れていないほうが。」

こっそりと増設した防犯カメラと、
管轄署の少年課&生活安全課の皆さんを総動員し、
繁華街エリアのあちこちへ配置。
偽者が動くだろう想定区域を
綿密に浚うこととなった こたびの作戦。
さすが、警察という専門機関が本腰入れて仕込んだだけあって、
動員された署員の方々の頭数も大したものならば、
それだと混乱が危ぶまれる連絡系統へも、
携帯電話の特別回線を引いたりと、
水も漏らさぬという態勢がきちんと取られている模様。
それを統括し、指揮を執っているのが、
こたびの作戦の立案者でもある島田警部補とのことで。

 「ですが。」

駅ビルとファッションマートが入ったモールビルと。
その狭間に伸びる、
様々なショップの並んだアミューズメントロードと。
それらによる主たる区域とその周縁、
おおまかに“Qタウン”と呼ばれるエリアを舞台とする、
暴行行為と金品強要の常習となりかかりの
お騒がせグループの摘発大作戦は
いよいよの決行を数時間後に控えていた…のではあったれど。
場末にあたろう路地へさりげなく停めた、
中継車代わりのボックスカーにて。
最初の…というか
下準備らしき作戦を授けられたばかりなお嬢さんたちが、
少々怪訝そうなお顔になっての司令官へと訊いたのが、

 「何で今宵が、その偽者さんたちの出没日だと判ったんです?」

こうまでの人員を割き、
本格的な規模と仕立ての警戒態勢の陣を敷くからには、
余程のこと、高い確証があっての実行でなければ洒落にならない。
逃亡中の凶悪な指名手配犯が
管区内へと入り込んで来た場合のシュミレーションだと思って、
気を引き締めてあたるように…と。
やはりやはり いかにもなお言いようにて
協力を仰いだ所轄の皆さんのやる気を刺激したのはおサスガなれど。
意気込んだ結果が単なる検挙訓練で終わってちゃあ、

 “税金泥棒も同じですよね。”

ひなげしさんたら手厳しー…っと思っておれば。
鋭い指摘をされた側の島田警部補からは
即答が返って来ての曰く、

 「うむ、確証はない。」
 「…それをはっきり言い切りますか。」

刑事が張り込みに何日も掛けるのはよくあることだぞ?と、
あくまでもしらっと、ぬけぬけ応じた勘兵衛だったりし。
それへ、

 「それって、
  正式な捜査本部を立ちあげたような事案へでしょうに。」

無駄足になっては、所轄の皆さんの士気にかかわりませんかと。
歯に衣着せずな物言いも辞さないひなげしさんだったのは、
何が何でも喧嘩を売りたかったからじゃあない。
遠回しな物言いは我らには時間の無駄ですよと、
こちとらただの十代の小娘じゃあないのですからという、
意気軒高っぷりを示したまで。
そんな果敢さへ苦笑をこぼすと、

 「お主らの学園のスケジュールから断じたまでだ。」

  「はい?」「??」「えっとぉ?」

相手の出方の話をしているのに、
どうしてこちらのスケジュールを参考に?と。
今ひとつ話がつながってませんがというお顔となった彼女らへ、

 「連中が困るのは、
  くどいようだが本物との鉢合わせだろうからな。」

正しくその通りだったほど、
忙しさのあまり、
此処へなかなか運べなんだ彼女らの事情や背景というもの。
学園のブログか何かで確かめて、
この十月は忙しい身だろうと踏まれていたようで。
これまでは“その隙に…”と頻繁にあちこちへ出ばって
“悪評”を高めていた奴らだが。

 「それだと逆に、
  “あれ? でも待てよ、
  本人たちは忙しいはずなのに?”…という
  真っ当な疑問を唱える風潮も出かねない。」

これもまた、情報の時代の恐ろしさ。
SNSのつぶやきなぞで
顔も知らぬ相手との意見交換もできる時代だ。
1つの事象へ四方八方から声が上がるのは已なきことだし、
此処が日常生活の場になってる顔触れにすれば、
ひどく敏感になってもいるだろう話題。
そこで、

  このところ頻繁に話題になってるそれって、
  本当に噂のお嬢様たちの仕業なのかな。
  それへかこつけた偽者が好き勝手してるだけとか、
  更には、関係ない喧嘩を
  適当にその子たちの起こした騒ぎだって
  吹聴してる奴がいんじゃないの?と、

 「征樹にあちこちの、
  主に十代が集まる掲示板やラインで触れ回ってもらった。」

  ……お、そこで胸を張りますか。
  今時の策を仕込んだって?

  でもでも、煽って焦らせて馬脚を現させるというのは、
  相手が年少なら効果的だと思いますが。

そんなこんなとお嬢さんたちが評価を出す傍らでは、
差し入れですと
ファストフードのスナックやらカップつきのドリンクやらを
こまごまと運んで来た佐伯さんが、
こそりと口を挟んでの曰く、

 「一度に取れるアカウントにも限度があるんですよ。
  今度からは自分でもやってくださいね、勘兵衛様。」

 「…今の今、それを言うな。」

ははあ、
策は思いついても手段は人任せだったな、勘兵衛様。(苦笑)

  まま、そこのところも今はさておき。

くどいようだが、
偽者へ本物をぶつけてぐうの音も出ぬよう運ぼうという策は、
勘兵衛にしてみれば、
何も派手な演出狙いというつもりではないらしく。

彼女らが目障りだった…から始まったあばれっぷりが、
いつの間にか金品を巻き上げる恐喝までセットになったほどに、
エスカレートしているのが恐ろしい。

  ……というのもなくはないのだが、それより何より。

不埒な輩を退治したいというよりも、
こうして足を運んでしまった彼女らへ、
実情を教えると同時、
大人の手であっさりと方をつけてやって。
日頃だと彼女らが猪突猛進しているが、
大人へ任せればこうもあっさり、
後腐れなく鳧がつくのだよと、
納得させたいというのこそが主旨であったらしくて。

 「だったのでな。
  早々に痴漢捕り物騒ぎを起こしてくれたのへは、
  冗談抜きに頭を抱えたぞ、儂らとしては。」

彫の深い男前が、
ここにいたってちろりんと
意味深な目線を送ってきたのへは、

 「あはは…。//////」
 「〜〜〜。」
 「すみません。/////」

あああ、こんなところへもあの騒動のオチが来ようとは。
こうなって来ると確かに
ややこしい偽者さんが現れて日頃の行いを揶揄されても
失敬なとの文句は言えぬ立場のお三方。

 「あ、でもでも、
  あの騒ぎも耳に入れているかも知れませんて。」

 「そうだとしたら何だ。」

私たちが来たぞというの、
相手には届いているかも知れぬということですよ。
ヘイさんたら、何かそれ“なまはげ”へのインスパイアみたい。
これこれ、そういう格好で横文字使うのはよしなさい…と。
相変わらずに脱線もしつつの、それでもね。
気がつけば、今宵の摘発大作戦へ、
皆して大乗り気となっていたのでありました。


   そうしてそして………







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  *理屈まるけですいません。
   もちっと煮詰めるべきだったかもですね。とほほん。
   あとちょっと続けます、どかお付き合いをvv


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